発売直前!カウントダウンフェスティバル開催を記念して、
シェルノサージュ・アルノサージュのショートストーリーをご紹介致します!
プラネタリー・メゾンと呼ばれるコロンのとある区画。
イオンとネイは白鷹の家に来ていた。もっとも、ネイは用事があるとかで外しており、
室内にはイオンと白鷹の二人だけ。 二人とも出会って間もないせいか、まだ互いの距離
感に慣れていないようだった。
会話の糸口が見つからずイオンは部屋を見回す。

「お人形さんがいっぱいあるんですね」

「お、おおお? 興味持ってくれたスか!? フィギュアって言うんスよ!」

イオンが興味を示してくれたことが嬉しかったのか、途端に白鷹はテンションを上げて喋り始める。

「こっちがミリィちゃんで、こっちがエリシアさんで……」

所狭しと並んだフィギュアを端から順番に紹介していく。さっきまでのぎこちなさが嘘のように、とても生き生きと。

「あ、申し訳ないっス。俺ばっかり喋っちゃってて。つい見境なくなってダーって喋っちゃうんスよね」

 ははは、と苦笑いのような表情を浮かべる白鷹。

「でも、それだけ好きなことがあるっていうことですよね。すごいです!」

「そ、そぉーッスかね?」

「しかも好きなだけじゃなくて、自分で作ったりも出来るなんて。機械のこととかにも詳しいし……わたし、そんなに熱中できるもの、ないかも」

と趣味に全力な白鷹と自分を比べてイオンは気落ちする。

「そんなことないッスよ! イオンちゃんだってたくさんの人を救ったじゃないッスか! 俺なんかよりよっぽどスケール大きいし、みんなのためになってるし、自信持っていいと思う」

「わたし、万寿沙羅の時はただ必死で、なんとかしなきゃって。それに夢ノ球でカノンさんと話した時、わたしと覚悟が違うなって思ったの。
わたしの周りにはすごい人ばっかり……」

「俺にとってはイオンちゃんもすごいッスけど……。でも、皇女様の周りってんだから、やっぱりすごい人は自然に集まるもんなんスかねぇ」

「ネイちゃんもそう。あんなに自信に溢れていて何でもできて。ちょっと眩しいなって」

「ネイちゃんの自信は俺も不思議ッス。そこがまた魅力的なんスけど」

「白鷹さんから見てもそうなんだ。ふふ」

意見が一致して二人で笑う。
共感が生まれたところで、白鷹は「そういえば」とイオンに聞く。

「イオンちゃんには好きなことってないんスか? 得意なこととか、人に誇れることじゃなくていいんス。これは好きだなっていうヤツ」

「好きなこと? ええっと……機械いじりは好き、かなぁ。よくいじってたから。わたしがやるようなことじゃないって止められたりもしたんだけど、
自分が考えた通りに組み上がったりするととっても嬉しいの」

「分かる! 分かるなー! 俺もプログラム組んで実際に走らせてうまくいった時とかもう、ガッツポーズもんッスよ!」

大げさな身振りで白鷹が同意する。
その同意が、白鷹に自分の趣味を肯定してもらえたような気がして、イオンの顔に笑顔が咲く。

「それに、俺だってプログラムで敵わない奴がいるんスよ。逆にすげーって惚れ込んじゃったくらいで。でも、俺は俺でプログラムって好きだし、
自信とか関係なくて。ただ好きだからやってるっていうか。フィギュアもそう。好きだから集めるし、好きすぎて自作なんかしたりして」

 白鷹の言葉はだんだん熱を帯びていく。フィギュアを語った時のような周りが見えなくなっているような感じではなく、
ちょっと照れつつも真剣に話してくれている。

「だから、イオンちゃんも好きなことを続ければいいんだと思うんスよ。
好きならやるし、好きだからやれるって思う事とかも、きっとあるはずッスから」

「そっか……。うん、そうかも」

 白鷹の言葉がすっと心の中に沁みていくようだった。

「まぁ、イオンちゃんが自信満々になってネイちゃんみたいになる姿は想像できないし」

 と笑う白鷹。イオンもそんな自分、想像も出来ないな、と釣られて笑ってしまう。

「それに! 俺の中のイオンちゃんはそういう活発な感じじゃなくて、もっとこうおしとやかで――」

「ほーう。それはあたしがおしとやかじゃないってことよね? ごめんなさいね、ばたばたと忙しないやつで。し・ろ・た・か?」

「ひぃ、ネ、ネイちゃん!?」

 いつの間にか戻ってきていたネイが白鷹の背中をつねっている。

「い、痛いッス!」

「なーんか雰囲気変わってるけど、あたしがいない間にイオンに変なことしてないでしょうね?」

「し、してないッスよ! 女の子には紳士的に振る舞うのがモットーッスよ!?」

「でも生のイオンは可愛いわよね?」

「可愛いッス!」

「やっぱり信用出来ないわね」

「痛っ。か、勘弁して欲しいッス!」

ネイと白鷹の、本気か冗談か分からないやりとりが微笑ましくてイオンはくすりと笑う。
まるでずっと付き合いがあったかのような自然な振る舞いに、確かに自分はああいう風にはなれないかも、とイオンは思った。

二人とも明るくて、すごい技術や才能もあって、自分に無いものをたくさん持っている。
けれど、そういう人達と自分を比べてしまうのではなく、これからはもうちょっとだけ、
好きなことを好きだという気持ちを持って頑張ってみようと思った。

それは、何ものにも縛られないとても素敵な気持ちだと思うから。

和泉 亮(いずみ りょう)
フリーライター
小説、ゲームの脚本などを執筆。
HP:http://second-lib.sakura.ne.jp/
Twitter:Izumi_SL
「ねえ、デルタ。この店、いまいちパッとしないわよね……」

「ネイさん、それ俺の店乗っ取っておいて言うセリフかよ……」

ソレイル内にあるレストラン【ネィアフランセ】は開店休業の様相を呈していた。
元々はデルタの店だったのだが、今はネイが店長となっている。

「デルタがやってた頃からパッとはしてなかったから今更じゃない?」

そして、デルタと一緒に来ていたキャスが告げる。

「いいんだよ! 知る人ぞ知る店ってことだろ?」

デルタの苦し紛れの言い訳に、女性陣は揃って溜め息をついた。

「知る人ぞ知るっていうか、そもそも客が来なかったじゃない」

「キャスの言う通り。客が来ないのは死活問題。これは早急になんとかすべき案件よ!」

ネイはそこから「うーん」と考え始めた。そして、カウンター内を三往復したところで、何かが閃いたようだった。

「そうよ! この店には看板メニューがないのよ! 強い売りがあれば評判が広まるはずだわ!」

「いや、うちにはチャーゼンっていう立派な看板メニューが……」

「でもあれ、看板メニューじゃなくて、唯一のメニューってだけじゃない。大して美味しくもなかったし」

「おいキャス!? お前、うちに来ては食べてただろ!?」

「アレしかメニューないのに、どうやって他のものを食べろっていうのよ!」

「まあまあ、キャス。落ち着きなさい。あたしのおかげでメニューが増えたとは言え、
やはり『ネィアフランセと言ったらこれ』っていう料理が無いのも事実。だけど、思いついたわ!」

ネイは一枚の紙の上に、サラサラとなにやらメモ書きをしていく。

「これが、この店を代表する新メニューよ!」

ネイが突きつけてきたメモは料理のレシピだった。一般的には調合レシピと呼ばれている。
特定の素材を組み合わせて様々なものを作るリストのことだ。
それは家電であったり料理であったり、はたまた兵装のたぐいであったり。今回はどうやら料理のようだ。

「あんたたちに新しい世界を見せてやるから、ちょっと待ってなさい!」

戸惑う二人を置いて、ネイはレシピ通りに調理を始めた。

「完成したわ。これが看板メニューとなるべく生まれた『爆薬ハンバーグ』よ!」

「あの、ネイさん。それを言うなら爆弾ハンバーグじゃ……?」

キャスは聞き間違いではないかと訊ねてみるが、どうやら爆薬ハンバーグで合っているらしい。

「爆弾ハンバーグなんて、ただ大きいだけの名称でしょ? でも、この爆薬ハンバーグは違うわ!」

「そうか、分かったぜ!」

「お。さっすがデルタ。察しがいいわね」

「あれだろ、爆薬みたいにきっつい辛さのハンバーグだろ!」

「……はぁ。だからあんたはパッとしないのよ」

「ちょっと待ってくれ! パッとしないのは店であって、オレじゃなかったはずだろ!?」

「デルタがパッとしないから店もパッとしなかったんでしょ」

「キャスはさっきからオレに何の恨みがあるんだよ!」

二人のいつも通りな漫才を見ながら、ネイはこほんと一つ咳払いをして注目を集める。

「これはね、その名の通り爆薬が隠し味として入っているのよ」

「客を殺す気かよ!」

「慌てない慌てない。そんな物騒な店がどこにあるのよ」

二人はネイを半眼で睨む。ここに誕生しようとしているではないか。

「爆薬の量は調整してあるわ。食べるとプチプチと弾けて面白い食感のはずよ」

「……はず?」

明らかに試食をしていない人間の言葉にデルタは嫌な汗をかく。得てしてそういう時のパターンは……。

「さ、デルタ。食べてみて」

「やっぱりか! 自信作ならネイさんが食べればいいだろ!」

「なに言ってんの。料理は客に食べさせてこそでしょ。店主が食べたらただのつまみ食いよ」

「本当の店主はオレなんだけどな……」

「大丈夫だって。あ、そうだ。作り置きもあるし、なんらなキャス、あんたも食べる?」

「遠慮しておくわ」

げんなりしながら断るキャス。

デルタは諦めてじいっとハンバーグを見つめる。

「ネイさんを信じるか。大丈夫だっていうし……」

「ささ、ドーンといっちゃって!」

ドーン!!
ネイの言葉と同時、キャスに差し出そうとした作り置きのハンバーグが突然爆発した。

「…………」

全員が沈黙する。

「ネイさん?」

デルタとキャスの声がハモった。

「あはは。さ、気を取り直して、召し上がれ?」

「取り直せるか! 爆発してるじゃねーか!」

「なによう。こっちは大丈夫よ、たぶん」

食べさせようとするネイと逃げるデルタ。それを見ていたキャスは……。

「じゃ、じゃあ私は客引きやってくるわ」

「あ! キャスが逃げた! 俺も今日は客引きしてくるぜ!」

「ちょっと、二人ともー! この料理はどうするのよ!」

外に飛び出していった二人に向かってネイがぷんぷんと言葉を投げる。
新メニュー開発に付き合っていたら体がいくつあっても足りない。これは少し店に来るのを控えた方がいいのかもしれないな、
とデルタは思った。

「俺の店のはず、なんだけどな……」

ネィアフランセの看板メニュー完成までは、まだまだ時間がかかりそうだった。
和泉 亮(いずみ りょう)
フリーライター
小説、ゲームの脚本などを執筆。
HP:http://second-lib.sakura.ne.jp/
Twitter:Izumi_SL